第5回 WEB講座
「生涯CA」
淑徳大学人文学部・国際コミュニケーション学部兼任講師 池之上美奈緒

「ああ、やっぱりそうよねぇ、そうだと思った」
このフレーズは「若いころは、CAだったンですよ」と言った後に、よくある反応です。その後には、「だから、いつも笑顔なのね!?だから、お辞儀が綺麗なのね!?」という言葉が続きます。CAの職を辞して27年経ちますが、この言葉を聞く度に、私は“未だにCA”であることに気づかされます。

社会に出て最初に就いた職種がスチュワーデスでした。今のように男女雇用機会均等法がありませんでしたから、性別がそのままわかる名称で、当時、女性の専門職としては花形だったと思います。その後、27年間で辿った道のりで、専業主婦、医療機関の契約職員、企業の研修講師、キャリアコンサルタント、大学講師、個人事業主、そして、JCAAのメンバーとさまざまな顔を持つようになりました。今も複数、同時進行しています。加えて、プライベートでは、母であり、妻であり、娘であり、何人かの友人としての顔も持ちつつですから、一体いくつの顔を持ったことになるのでしょうか?もちろん、どの顔も私の存在価値を実証してくれる大切なものです。

人は、生涯で少なくとも9つの役割を持つと言われています(スーパーの「ライフキャリアレインボー理論」より)その役割の1つに「働き手」があります。私にとって、この「働き手」の最初がCAであったことが、後の人生を大いに豊かにしてくれました。現役のときにはそんなことを想像すらできず、退職後の明るい未来を描けませんでしたが、どの仕事の後ろにも必ずCAの顔があり、そこで磨いた能力がどの場面でも活きていたのです。

CAの仕事は、絶対にルーティンから外れることはありません。マニュアルが基本です。しかし、同じフライトは2度とありません。そういう意味では、マニュアルに頼るのではなく、臨機応変な対応が常道化されています。お客様、クルーメンバー、飛行ルート、天候、フライトタイム等々、すべての条件が異なる中で、いかにお客様に満足していただくか、つねに最適を考えながら、優先順位を割り出していきます。優先順位の基準は、“今、私がすべきこと”です。限られた時間、空間、人数で、これを追究するために、さまざまな能力を駆使しなければなりません。全体を俯瞰して最優先すべき仕事を決め、優先すべきことから逆に着陸までの段取りを修正することもあります。イレギュラーが起きることがレギュラーのようなものです。

さらに要求されることは、緊急事態への対応です。乗務員として最後の1人になっても、リーダーとして毅然とした態度でお客様を誘導し、安全を確保する。その覚悟が、いつも頭の中にあります。

こんな仕事、他にあるでしょうか?今でこそ、女性パイロットや運転手が活躍するようになりましたが、保安要員として確立した実績と歴史を持つのは、私たちが一番古いのではないでしょうか。

CAになって培った能力や意識を挙げてみました。

*能力・行動力
コミュニケーション、チームワーク、安全管理、情報管理、状況判断、問題解決、職務遂行、リーダーシップ、語学、意思決定、洞察・観察、マナー・プロトコル、丁寧・迅速・正確、マネジメント、教育・育成、美しい所作  etc
*姿勢・意識
ホスピタリティ、危機管理、時間管理、健康管理、問題発見、公平・公正、責任感、清潔感、知識・能力向上、柔軟性、奉仕への意欲、顧客満足、一期一会、国際感覚  etc

これらは、CAに求められる資質であり、乗務しながら養われる基礎的能力です。つまり、CAとしてプロ意識を持って行動していれば、誰もが持ちうるスキルとスピリッツといえるでしょう。さらに、その人独自の仕事観、人間性、職責によっても違いが出てくると思います。

ところが、いざ転職を考えると、実務経験があるわけではなく、PCのスキルもなければ、コスト管理や企画・開発といったビジネス感覚がありません。あるのは、接客対応力だけ。「ああ!なんて潰しのきかない職業かしら!?」と、子育てが一段落して何か仕事を…と思ったときに、私自身がぶちあたった壁です。

もし、今、同じように思っていらっしゃる方がいたら、とても残念なことです。自分の見えない力にもっと目を向けてください。気づかないだけなのです。どのような職業についても、やり遂げる能力が身についていることを自覚しましょう。ただし、そのための努力は必要ですが…。

生涯をかけてCAを貫く。これは、好むと好まざるとにかかわらず、有難いことに他人が教えてくれます。というより、“忘れさせてくれない”と言った方が当たっているかもしれません。一時は、それが嫌でした。いつまでも過去のイメージに固執しているようで、聞かれるたびに反抗的に「CAだったことは、今、聞かれるまで忘れていました」なんて強がりを言ってみたこともあります。しかし、今は誇りに感じています。これほど、たくさんのタフなスピリッツとスキルを与えてくれる職種は稀だと思うからです。

もし、このまま日本が、出生率が改善されることなく、女性の社会進出が思うように進まなければ30~40年後には、労働人口は今の半分になってしまいます。それがどのような状況を創り出すか予測できますか。そのころはもう私はいませんが(たぶん…)、いないからこそ責任をもって、今生きている私たちが対処しないといけない課題だと認識しています。私たちにできる最大限の力を使って、後世への道を作らなければいけないと思っています。

その意味でも、多くの能力を得ているCAを退職とともに埋もれさせてしまうのは、もったいないと感じています。

実は、航空業界の内側にいるとわかりませんが、外の世界にはCAの能力に気づいている個人や法人が想像以上にたくさんあります。CAの皆さんが次のステージへ駆け上がりたいと思うのであれば、ぜひ、JCAAにご相談いただきたいと思います。そんな企業やCAをサポートしながら、女性の社会進出をリードできたら、私たちJCAAにとってもこのうえない幸せです。

「わたし、CAだったンだ」
「うそでしょ!?ありえな~い!」と言われないように、「生涯CA」であることを一緒に目指していきましょう。

淑徳大学兼任講師 池之上美奈緒


 

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